松本すみ子の「定年準備講座」
 

第29回 団塊向け雑誌の創刊相次ぐ <その1           2006年12月5日
 〜有料、無料、タウン誌と種類が豊富に〜

 
*このエッセイは、日経BP「団塊世代のための定年準備講座」に掲載したものです。
 

 団塊世代を読者の中心に据えた中高年向け雑誌が増えている。特に,男性誌の創刊が相次ぐ。ライフスタイル全般の情報を提供する総合誌から,エンタテインメント,ファッション,料理など,よりセグメントされたジャンルの専門誌に移りつつあるのが最近の傾向だ。また,大手出版社だけでなく,団塊/シニア層に的を絞った地方の中小出版社のタウン誌が健闘している。

 今回は,団塊向け新雑誌とフリーペーパーの代表的なものをピックアップしてみた。次回は,各地のタウン誌とその中からユニークな編集方針を持つ雑誌を紹介する。

団塊の成長過程で生まれた雑誌創刊ブーム

 1960年代半ば,団塊世代が少年・少女期を迎えるのと同時に,『少年サンデー』,『少年マガジン』,少女向けには『少女フレンド』,『マーガレット』といったマンガ週刊誌が創刊された。ついで,『平凡パンチ』と『ガロ』が,さらに,60年代の最後には『少年ジャンプ』『週刊プレイボーイ』が生まれている。

 1970年代になると,若い女性向け雑誌として『anan』,ファッション雑誌『non-no』が創刊され,爆発的な売れ行きを示した。そのおかげで,若い女性の間に“旅”のブームが起こり,雑誌を片手に観光地を巡る女性たちは「アンノン族」と呼ばれた。

 男性も,『平凡パンチ』や『週刊プレイボーイ』に刺激を受け,アイビールックやジーンズなどのファッションに関心を持つことが普通になった。団塊世代の成長過程で,雑誌の影響は大きかったのだ。

 それを考えれば,定年が近づいた今,団塊向け雑誌がいくつも創刊されるのは予想できたことだ。なにしろ,少年・少女時代以来,久しぶりにたっぷりの自由な時間を手に入れることになるからだ。

 しかし,テレビやインターネットなど,情報を得る新しい手段が多様になっている今,60年代のような爆発的な雑誌の創刊ブームが来るかどうかは疑問だ。難しいのは,紙媒体にしろ,ネットにしろ,どんな内容なら読まれるかということだろう。

サイズも重さも高級女性誌並みの男性誌

2005年は団塊向けの大型雑誌が初めて創刊された年である。小学館が『サライ』の兄弟誌として創刊したのは『駱駝』(らくだ)。名前から予想できるように,旅を中心に,関連ある趣味や生活情報などを提供する。特徴的なのは,男性誌でありながら,高級女性誌と同じ大判サイズだということ。良質の紙を使い,重さもずっしりとある。価格は800円から1000円と通常の雑誌の2倍くらい高い。これは,それまでの男性誌にはなかったタイプのものだ。

 やはり05年に創刊された『百楽』(ケイアイ)も同じようなタイプだ。高級感を出すためには,大きさと重さが必要なのだろう。しかし,このタイプの雑誌を持ち歩く男性は見たことがない。定年後は自宅だから,重くてもいいのだろうか。こちらの内容は,幅広いライフスタイルの提案と情報提供。どちらも,いわば“道楽”雑誌である。

 ジャンルを絞った専門誌としては,シニア向けファッション誌の『Men’s EX』(世界文化社)や『Z(ジー)』(龍宮社)がある。『Z』とは,55歳以上の粋な爺(じい)たちを呼ぶ名称で,洗練されたファッションと知的なライフスタイル情報を提供していくという。

 また,男のための食情報誌『ates(アテス)』も06年11月に創刊された。特に,団塊とは謳ってないが,道具にこだわる部分など,団塊世代が視野に入っていることは間違いない。

 

フリーペーパーに勢いあり

最近,面白いのは相次いで創刊されたシニア向けフリーペーパーである。大手出版社ではなく,今まで雑誌の出版などにはあまりかかわってこなかった会社などが参入している。また,フリーペーパーといっても,内容は市販の雑誌と遜色ないものが多い。

 フリーペーパーは,今後過当競争が始まるかもしれない。しかし,スポンサーの意向が見え見えでない良質な内容を維持すれば,無料ということもあって,読者は定着するだろう。

 代表的なフリーペーパーは,「団塊世代に向けた初のエンターテインメント誌」として,大阪を中心に配布している『5L ファイブエル』(ライフエンタテイメント)だ。05年11月に,吉本興業の元役員・木村政雄氏によって創刊された。木村氏は1946年生まれの,まさに団塊世代。当事者意識で作られたという意味は大きい。最近は,東京近辺の情報も加え,関東地区でも配布している。大阪から東京への進出を狙っているのは間違いない。

 

 50代のマインドリッチな大人に向けという『ゴールデンミニッツ』は,東京メトロの主要53駅で配布されている。もともと一般向けの『メトロミニッツ』というフリーペーパーがあり,そのシニア版として06年5月に創刊された。内容は,地下鉄で配るだけあって,生活情報とタウン情報がミックスされたようなものが多い。

 ほかに,06年11月に創刊されたアクティブシニア向けの『4health』という健康情報誌がある。名称は,食,睡眠,運動,心の4つをキーワードにしていることから。宅配サービス事業者が各家庭に直接配る方式を取っている。

誰が次の団塊向け雑誌を作るのか

 1960年代には,雑誌により,若い女性の間に“旅”のブームが起こった。若い男性向けファッション誌によって,若い男性がファッションに関心を持ち,その象徴であるアイビールックが広がっていった。これと同じようなことは,これから起こるのだろうか。

 今までも,中高年を狙った雑誌が相次いで創刊されたことがあった。たとえば,2000〜2001年には,50歳前後の活動的な男性を対象にした趣味生活情報誌『Hemingway』(毎日新聞),男のライフスタイル・ナビゲーション誌『MILES』(徳間書店),エネルギッシュなミドルエイジのための雑誌『日経おとなのOFF』(日経ホーム出版社),などが創刊されている。

 しかし,『MILES』と『Hemingway』は,2002年には早々に休刊となってしまった。残った『日経おとなのOFF』や『レオン』はもう少し若い世代にシフトしていった。仕事に夢中な団塊世代は,こうした記事を楽しむ余裕はなかったのかもしれない。これから定年を迎え,自由時間をたっぷり持ったとき,団塊世代はまた雑誌の世界も変えていくのだろうか。それとも...。

 ひとつ言えるのは,今までのシニア向け雑誌の概念ではおそらく団塊世代を満足させることはできないだろうということだ。60年代の雑誌がそうであったように,今までにはなかったユニークな編集方針と企画で,現状の団塊世代の気分にあったものを出さないとブームとはならないのではないだろうか。

 60年代の若者から大きく変化した団塊世代は,今後,雑誌に何を求めるのだろう。あの時代,そういう気分と傾向を見出して新雑誌を創刊した人たちは,団塊世代よりも年上の大人たちだった。今,その人たちに代わって,団塊向けの企画ができる人がいるのかどうか。もしかすると,それは団塊自身がやらなければならない仕事なのかもしれない。

 次回は,その方向を示す一つの例として,各地のタウン誌と北陸で丹念に作られている自然派タウン誌を紹介してみたい。

(松本すみ子=アリア/シニアライフアドバイザー)

     
 

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